ラセット
聖だって女の子(笑)。
ていうか手伝えよ。
「お疲れさま」
「……ありがとう」
す、と紅茶をサーブする。蓉子は目をぱちくりとさせてカップを見、それから私をきょとんと見上げた。大きなままの目が、可愛いなって、思って心臓が高鳴った。
「…どういう風の吹き回し?」
少し自分の側に引き寄せて、白い陶磁を指でなぞると、蓉子は綺麗な眉をひそめる。
なんでも真面目に意味を考えようとするまっすぐさは、嫌いじゃないけどたまに無粋。もちろん意味はある、でも今は必要ないよ? 素直に笑って飲んでくれるだけで良いんだけどな。
「ひどいなぁ」
愛しの紅薔薇さまのためならいくらでもサービス致しますよ?
ちゃんと軽くなってくれて安堵する自分。お調子者のリップサービス、気の置けない親友だってたまにはからかう。あなたは私を良く知ってるけど、私にだってこれくらいは。
「…だったら、」
じと目で睨む蓉子を、頬杖をつきながら堪能して。愛しいからにやにやと笑ってみせる、ティーパーティーの隣には書類の塔。几帳面な蓉子の字で埋め尽くされきっちり印が押された、彼女の努力の結晶は薔薇さまの仕事。手伝いたくなかったわけじゃないよ、なんて勿論口には出さない。怒られるより何よりその理由を蓉子には言えないから。
はあ、とため息をつく蓉子。もうお決まりの仕草、続けてふう、なんてあってそれからうーんと伸びをする。カップを倒さないように気をつけながら、控えめに伸ばされた蓉子の肢体。もっと見たいとかむしろ触れたいとか邪な願望を押さえつけて鎮圧させる。いくら呆れられても良いけど、嫌われたくはない。ため息ひとつ(ふたつ?)で許してくれる蓉子は優しい。他の人より少し多く許されたい、なんてひどい独占欲。
「…いいにおい」
すう、と湯気を吸い込んだ蓉子の胸が、膨らむ姿に目を引き寄せられる私。猫舌だからまだ口がつけられない、だから私はまだ暫くは彼女を見ていられる。早く飲んでくれないかな、なんて、無邪気なこどもを演じていられる。
「…聖、ありがとう」
「どういたしまして」
じっ、と見つめられる赤茶けた液体。嬉しそうなのはお気に入りのだから? 珍しくも私が淹れた、から? 私、だから……?
……なんて、罪を問われない思想犯は蓉子を勝手に。あなたを僅かでもあたためている温度、楽しませている香り。私の手からは離れたそれを、蓉子は優しく抱え込む。蓉子に見られない私は口実をタテに蓉子を見つめ続ける。気づかれませんように。開く茶葉にこめた私の本当の思いには。
……ずっとこのまま、冷めなければいいのに。