リハビリリハビリ
ひとつき前のネタの続き。過去江蓉な聖蓉、予定。
つきんと胸が痛んだのは、小さな箱からただよう香りが、あのときのハーブティーだと気づいてしまったからだろう。
味そのものを、覚えているわけではない。
覚えていないわけでもないけれど、似たような日の近しい経験や同時に摂取した刺さることば、撫でられた肌。柔らかな刺激はころりと輪になって、私には見分けがつかないのだ。
あの日の味だったかもしれない。その前にもらったお茶でないとも言いきれない。2回使われた茶葉の銘柄と、一致してはいなかったろうか。
曖昧を許される事象について、私の記憶は江利子の好意にただ甘えた。
息を吐く。次に吸ったついでに、もう一度香りを取り込んでみる。もう一度だけ。覆されることがわかりきった釈明。私と江利子の過去など知る由もない贈り主の笑顔が私の心を暖かくさせ、忸怩たる土壌にそっと染み入っていく。小さな箱を抱えもつ私の手の平は湿っている。おいしかったのでおすそわけです。おふたりでどうぞ、と続けたかったのだろう彼女がそうはしなかったのは、先輩の嗜好について随分と知識をたくわえてしまったからだろう。
ああ、もうすぐ聖が帰ってくる。