江蓉。
微妙な距離感。
実は共振の孤独とかいう御題の続きですが蛇足だったやも。最近裏でこそこそと繋がりはじめている筆ペンワールド。(2パターン)
「……蓉子?」
校舎の壁に影が立った。
「…江利子……?」
紅薔薇さまではなかった、から。何を繕うこともなく緩慢に身を動かす。知らずぼんやりとしていた、つけであちこちがぱきぱきと痛む。
いつもの江利子。いつも変わらない、その安定が私には眩しい。身を投げ出したいほどの安堵に包まれたのは、不安定な今の私のせい。江利子のその無気力さを自分本位に解釈する、弱い心。
「どうしたの?」
「なんでもないわ」
私がいつも変わらないのはただの強がり。
知っている江利子はふうんと無感情に返答を返す。
「今から暇、だったわよね?」
ちょっと付き合いなさい、と唐突に。しかし私の手を取ることはなく、私がついてくるか確かめすらせずに歩き出す江利子。
何なのよ、と文句をのど飴のように口内で転がしながら彼女を追いながら私は自らに絡む嫌な感情を少しずつ溶かした。
正しくは「暇になった」ことを知っているだろうに言わない相手に感謝を言えない情けなさを残しながら。
*
「……一体どういうつもり?」
「公園だけど」
……そんなことを聞いているのではない。
無造作にベンチに腰を下ろす江利子はつまらなさそうに遊具を見回している。橙色の陽も失せかけたジャングルジムやブランコは、やはり退屈そうにこちらを見返してくる。馬鹿馬鹿しい。視線で児童公園を一回りした江利子は座るタイミングを逃した私に眉を顰めた。何をぼけっとしてるのよ、なんて呟かれて(だって私に向けられた言葉じゃなかった、)ぐいっと引っ張られた手首の血が止まった。
「さあ、人生相談でもしましょうか?」
「……結構よ」
辞退する私は木製のベンチに張りつけられる。江利子の隣で鞄を抱える。教科書とノートと筆箱と弁当箱と。今はすべり台や運亭より役立たずな私の所有物たち。
江利子は私を見つめる。私を見ないまま。明るさをどんどん失う遊具とその影に目の焦点を合わせながら。
「何が欲しかったの?」
欲しかった。欲しかった、のだろうか。私のこの欠落感を聖は埋められるのだろうか。
「……別に、何も」
ロザリオも優しさもそれから愛も。要らないし貰えない。二番手に甘んじる強さは私には無いから。
「代わりに私があげましょうか」
「冗談言わないで」
聖の代わり、代わりの愛。どちらもごめんだ。江利子は江利子で良い。誰かの代わりにしたくないしされたくない。
埋めて欲しい隙間を聖には見せることすらできない私は、リリアンの中庭のベンチに取り残されている。手首も首もとも膝も、寒々しく私の欠落感を焦燥に変えてくる。凍えまいと自ら燃える西日の燃料になろうとする。肩も触れない距離で江利子の隣に座っている。
乖離した心が呼ぶ相手と縋る相手を持て余す私は、もうとっくに沈んだ太陽に向け目を細める。象徴というものはおしなべて儚い。脆いから皆守ろうとするのだ。
そう強がる私の上にまた明日、陽は昇り燦々と照る。必ず沈むことを毎日毎日、見せつけておいて。