(no subject)
朝ごはん。
蓉子は基本和食派で、先日のようにたまに聖が作ると洋食になるのです。
でも蓉子は聖に合わせてパンとスープの日とかも作ってるんだろうな。そんな妄想同棲設定。
「……さっきはごめん」
事の次第がようやく飲み込めたのはしゃくしゃくと朝食の浅漬けを咀嚼してる途中。
「ああ、別に良いわよ」
大体非常識な時間にかけてきた母も悪いんだから、と済ました顔で味噌汁をすする蓉子。一瞬顔をしかめた、やっぱりまだ熱かったのかな。
猫舌の蓉子と平気な私との時間差が大体分かるくらいには私たちは生活を共有してきた。
「なんで、あの曲?」
「だって、聖と観に行った映画、面白かったじゃない」
それで普通家族向けの着信音にするかなあ。
B級なのか微妙なラインの上を銃器と少女と夢と熱気が駆け抜けた新作は、(少なくとも我が家よりは)随分とあったかい家族の用を知らせるにはふさわしくないように思える。まあ主観だけど。ストーリーには家族愛も微妙に含まれてたけど。
「ああ、聖から来たの以外はみんなあの曲よ?」
「え?」
ご飯をよく噛んで食べましょう、なんて今流行りらしい食育の模範学生に選ばれてもおかしくない蓉子は口の中に何か入ったままで会話なんて勿論しない。
ちょっとしたタイムラグの後でぽーんと投げ返されるキャッチボール。
「大体あなたは、人によって設定を変えているの?」
いや別に。寧ろ蓉子のですら変えてないし。そもそも滅多にマナーモード解除しないし。
「でも蓉子なんてマメだから、いかにもやってそう」
「……聖だけ違うっていうのが、特別な感じがあって良いんじゃない」
駄目? と少し照れた表情が机の向こう側で。
「うーん、この机を飛び越えて今すぐ蓉子を抱きしめたい、ってところかな」
おどけてでもないと、こんな蓉子を見つめるなんて絶対に無理。
「……まああなたはそんなこと考えたこともないんでしょうけど」
私のもみんなと一緒だものね、とちょっと、拗ねたように。
だから朝から煽らないでってば! その横顔は反則入ってるから!
「蓉子だけ分けちゃうと、多分他の人からのは見なくなっちゃうから?」
ごまかしのつもりでうっかり本音。
かわいい子たちと戯れるにもメールでっていうのはちょっと……ねえ。面倒だし、色々胡散臭いし。
事務的なメールって分かってたら進んで開けたりしないしさあ。
「……あなたね」
呆れた、と思った通りの表情をする蓉子に私はへらりと笑う。
取り敢えず目覚ましの音は変えなきゃな、と思いながら。