日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

(no subject)

乃志。久しぶり? でもないか。

真史さまに応援感謝の意もこっそり籠めながら(苦笑)。ありがとうございました。

市電の駅のターミナルで、乗るはずだったバスが目の前を通りすぎていった。折り返し運転で1時間に一本にしかないと告げる時刻表は、つまるところ徒歩30分くらいのお寺までなら歩いていきなさいと若者に説教していた。無事着いたらアイスクリームをご褒美に食べる約束をして、ふたり歩き出す。

随分歩いて、着いたお寺は、境内まで長い長い石段を備えていた。

「きっつー……」

実のところ乃梨子は余り体力がない。

この間紅葉狩りの折にからかったらインドア派だもん、と拗ねられた。あの顔はとても可愛かった。ふふ、と笑うとじと目が降ってくる。

「ごめんなさい、」

そういう意味じゃないのよ。

じゃあどういう意味ー? とやっぱり息も絶え絶えな乃梨子は本当につらそうだったから。のぼりきったら教えてあげるわ、と今度は確かに今目の前にいる彼女に向かって笑う。

「うー」

意地悪いなーとふて腐れたように言ってそうしてまた前を向く乃梨子。ずっと歩きづくめだからだけじゃない赤さが頬におりた気がして、顔を覗き込みたくなったけど張り切って先を歩く乃梨子を追い抜いてしまうのは申し訳なかったから。気持ち早くなったペースに足を合わせながら今度は忍び笑いに留める。

「……やった、」

境内に入って、最後の石段を踏んだ乃梨子はもう一歩入ってからぴょんと跳んだ。

「志摩子さん!」

手を取られぎゅっと握られる。少し汗ばんでいる小さな手のひらが私をあたたかくする。

「そんなにアイスクリームが楽しみ?」

耳元に囁くと染まる肌がますますよく見えて。

「……下のコンビニまで降りなきゃ、売ってないって」

常識的な答えを返す乃梨子は目が少し泳いでいる。あら、と疑問符が浮かんで、でも理由はさっぱり分からない。さあどうしたものか。

「ああ、やっと観られるものね」

楽しみにしてたものね、と弥勒菩薩の写真を思い浮かべる。説明する時の乃梨子のはしゃいだ声が頭で再生されて、目の前の黒髪を軽く撫でる。

一瞬飛びのきかけてやっぱりやめた乃梨子が可愛い。

「……分かって言ってるでしょ、志摩子さん」

「勿論?」

乃梨子が私に聞きたいことなら、流石に。

でも乃梨子のさっきの行動の謎解きはまだ出来てないし、お互いさまじゃないかしら。

石畳に点在する落ち葉を眺めながら思う。ぎゅっともう一度してきた乃梨子の顔はちょっと拗ねてるけど怒ってはいない。

じゃり、と他人の足音がした。視線を向けると住職らしき方がこちらに歩いてくるのが見える。

どうやらまたお預けを食らったらしい乃梨子はすぐに拝観できそうなことを喜ぶべきなのか自分でも分からないという顔をしている。

本当に大したことじゃないから今すぐ教えてあげても良いのだけれけど、その表情はやっぱりどこまでも可愛かったから。

代わりに繋がれたままの手を私から一度ぎゅっと握った。