(no subject)
会話文だけで放置されてた奴らをサルベージ開始。
地の文を足すか否かは時間の余裕によります(苦笑)。
「あ、おはよー」
「……おはよう、聖」
焦燥と不安に突き動かされていた力が抜けると意外と日常に近くなるものだ、と朝の挨拶を思わず普通に返しながら私は思った。
「朝はトーストとサラダだけど、蓉子は珈琲要る?」
目の前の聖をまじまじと見る。確かに彼女は私の恋人の佐藤聖で、昨日おやすみって笑顔で言った時そのままの機嫌で私に話しかけてくる。
「……どうして」
血と共に上がった息を強引に戻したツケが今更出てきた身体は地に着いたはずの足を随分と頼りなくして。
「ん? 要らない? 牛乳で割って飲むー?」
相変わらずのんびりしたままの聖の方へ歩を進めることもできやしない。
「じゃなくて、どうしてこんなに早いのよ!」
いつもいつも、特別夜更かししているわけじゃない日だってぎりぎりまで起きてこないじゃない。
「いけなかった?」
「違うわ! はぐらかさないで!」
だって、だって。
「朝から元気だねえ」
「聖……!」
……あなた、が、また。
「あーはいはい。
別に特別な意味はないけど」
いつもぐずぐずと中々起きない聖が、台所で朝ごはんを作るために布団から出たなんて、誰が信じられるっていうの?
「なーんとなく目が覚めちゃったからさ。
これは蓉子を喜ばせるしかない! と思いましてね」
……本当、に?
「……聖」
「んー?
……わ、」
かくん、と安堵で本当に抜けそうになった足を無理矢理動かして、聖の前へ、まるで吸い寄せられるかのように。
「……心配、したのよ」
「え、えぇ? どして?
あ、包丁で指は切ってないよ?」
両手を目の前で開いて私に見せる、聖。
でもそんなことされちゃ表情が隠れてしまうし、キス、もできないの。
「だって、聖がいなかったんだもの」
肩に押しつけた頭はさっきとは真逆の意味で血がのぼって熱い。
「……蓉子」
驚いた聖が落ち着いてそれから私を抱きしめてくれる過程を立ったままゆっくりと感じ続ける。
「……だって、また、」
ああ、朝からみっともなく、泣いてしまいそう。
「……ごめんね、蓉子」
耳元に次々に落ちてくる聖の声音はとても優しくて暖かくてそれが私に向けられていることに私はまだ慣れていなくて。
こぼれそうな涙を聖のTシャツで乱暴に拭って私は深呼吸を繰り返した。意識的な呼吸で、できる限りの聖を感じようと。