百年文庫
今更ながら、読んだ分まとめ。
百年文庫はポプラ社が出してる、漢字1語をテーマに3つの短編を入れたアンソロです。古典メイン(たぶん故人限定?)ですが文字は大きいし薄い新書サイズ。全100冊。
おそらく自分のように中途半端にかじってるのが心地いい層を狙ってるんだろうなあ、と思いながら素直に釣られることにして、のんびり読んでます。
トップバッター。初吉屋信子……よりも石川達三の、真っ逆さまに堕ちていく自由詩人にやられました。嫌な気配がじわじわと這ってくる。
最初に2冊選んだのです。(つまり相変わらずの趣味)読了はこちらが後に。
同じくどんどん没落・零落が迫り来る展開ばかり。半ば娼館な喫茶店のエグさが一番だったかな。
86「灼」ヴィーヒェルト/原民喜/キプリング
鈴木仁子との出会い。大感謝、なヴィーヒェルト作品、素晴らしかったです。
戦争の記憶たち、元々好みなジャンルということもあり、どれも面白かった。
85「紅」若杉鳥子/大田洋子/素木しづ
面白かったけれど自分にとっての紅のイメージとは溝があって違和感。陰陽の陽・ハレの印象が強い、んだよなあ……。真紅から来ているのだろうか。
話はどれも好きでした。若杉鳥子の消したい過去に向き合わざるをえない葬儀のための帰省、大田洋子は義足と共に生きる女性。
54「巡」ノヴァーリス/ベッケル/ゴーチエ
ロマンチック全開。しみったれた行商人的な話をなぜか想像していたので……こう、段々笑うしかない心境になってました。
ひとつ選ぶならベッケルの古代ポンペイの女奴隷との夢物語かな。
その名の通り。幸田文の台所の音、に唸る。これもじわじわ来る系だなあ……。
ひとつ上のと2冊合わせ、初期の奴に手を出そうと思ったのでした。
話としては太宰治の女生徒、が好みなのだけれど私小説的に読むと久坂葉子がすごかった……。
痛々しい青年期を昇華しきれないまま夭逝したひとには弱い……んだろうなあ。
63「巴」ゾラ/ミュッセ/深尾須磨子
ともえってなんぞ……と思っていたらパリ(巴里)のことだそうで。……なんだそれ(笑)。
深尾須磨子はラテンな恋に流される日本人女性。全体的に虚飾と見栄で出来てる印象、パリってこんななのか……w
13「響」ヴァーグナー/ホフマン/ダウスン
面白かったけど割とワイドショー的な楽しみ方をしてしまった感が……。
これもまた音楽の話。
洲之内徹のラ氏の笛、が格別。「斯うして彼れは再び血を吐く機会に行き会った。彼れはそれを『生命の支払い期』と戯れて呼んだ。」
どれもこれもが死別の惜別。生前を懐かしむから惜別なんだよなあ。
期待してた空気を堪能できたので満足です。
新美南吉は耽美かと思いきや……な田舎少年たちの交流で、中村地平の南方通信は王道を貫く展開。