日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

3日ほど唸ってましたが

無理なものは無理でした。というわけで連作にするつもりだったSSを引っ張り出してきました。クリスマスも誕生日も関係ないけど愛と糖分は籠めてます。

誕生日おめでとう、聖。

刺すような視線よりいたたまれないのは、ひたすらに楽しんでいる恋人の眼差し。何をしているわけでもないのに、いやむしろそんな私が珍しいのか。ただ、片膝を抱えて椅子の上から私を見ている。目的の知れない表情は、私を脅かすものではないが、落ち着かせてくれるものでもない。これがあからさまに情欲の目つき、だとか構って光線乱れ撃ち、とかならまだ良い。本当に、こちらがどうすれば良いか決めかねる態度は困って仕方がない。ふたりきりの団欒という甘やかさは困惑にかき消されてしまう。聖を見つめ返すと降りてくるのはやはり他意の無さそうな呑気な笑顔。多分故意だろう透けない本音。

「背骨歪むわよ」

「大丈夫だよ」

言い訳にしても適当が過ぎる聖の返答。どうせまともに返す気なんて無いのだ。にやつく頬からもよくわかる。

ふわりとしたワンピースめいた寝間着の端。黒いレースがちらちらと覗く、はしたなさに私の方が顔を赤らめてしまう。見た目や風評とは裏腹に聖はフリルやレースの類が嫌いではない、と思う。好悪以前に無頓着なのだ。楽ならそれで良いと言わんばかりに大きめだったりゆったりしている服を身につけたり身につけなかったりしている。

「蓉子だってやるじゃない」

「やらないわよ」

「足の爪切るときとかさ」

「…屁理屈言わないで」

こないだ痛かったんだからあ、と脈絡ないことばを放って、聖は勢い良く椅子から飛び降りた。あのはやさでどうして物音ひとつ立たないのか私にはどうにも謎だ。身のこなしが軽い、と言ってしまえばそれまでだが、しなやかな聖の動きは恋人の贔屓目を抜いたって充分に見惚れる美しさを有していると思う。体重の違いだという意見は却下する。私より背が高いくせに、腹立たしいことこの上ない。

「そっか、蓉子に切ってもらえば良いんだ」

いきなり耳元に息がかかり、私はソファの上で飛び上がった。無言で済んだのは幸い、もとい聖の教育とやらの賜物だ。聖への不意打ちへの対処法は文字通り身体に叩き込まれた。それはもう大変不本意なことに。最ももしかしたら聖にも不本意なのかもしれないが。いややっぱりそんなことはないか。

「ほら、耳かきみたいにさ」

無邪気を装う聖は背もたれを肘置きにして、私を囲う。顔の前で交差された両手は私を固まらせるには充分で、振り切って逃げるという選択肢をひらひらと追いやる。その代わり聖の方を向くこともできない。一体何の尋問だ。スキンシップなら意味不明だと悪態をつく私の肌を水色の光沢がくすぐる。何をどうしたら勝負が決まるかはわからないがこのままでは劣勢だと脳が警鐘を鳴らす。……余計なことを。

「そんなこと、して、どうするの、」

「どうもこうもないけど」

……それはそうだろう。

ああ本当に力無い意思が恨めしい。指先どころかこころの隅々まで固められ意のままにされる屈伏感に、よろこびの欠片を見出だし始めた感情を、当てになどは到底できない。身体に直結して、すぐ聖に伝えてしまう。

「蓉子の手つき、優しいから、好きよ」

容赦のない距離が、私の鼓動を馬鹿にさせる。こういう誉め方はずるい。軽薄な仮面を好く少女たちとは相容れないが、さらりと喉を撫でていくこういった挙動に惹かれたのなら、分かる気がする。なんとも単純な絆され方だ、と表面と奥底に僅かずつ残る冷静さが馬鹿にすると前後してぐらりと身体の芯が歪む。ソファの背に身を預けることは聖と密着することを意味した。悪循環だ。わかっている。でもこうして落とされるのも悪くないかもしれないなんてもう思ってしまっている。

「そしたら私も後で蓉子に、かしずいてあげる」

「は!?」

前言撤回。この馬鹿は一体何を考えているのだ。

じわりと血が集まったのは頬でも示唆された足でもなく。無慈悲にも聖の味方をして私に襲いかかった。逆流しそうな血流は間違いなく寿命を少し縮めた。刹那の恋なんて柄じゃないのに。せっかく柄にもなく甘い感覚に酔っていたと言うのに。

「あ、ペディキュアの方が良いかな?」

いけしゃあしゃあとのたまう口を間近に感じ、精一杯の抵抗として、踏みつけるわよなんて悪態をつく。どんな状況下でなんの制裁になるのか自分でもわからないがここで陥落はできない。従順にはなれない。プライドだけで歯向かった私には、それもいいなあと笑みを深くする彼女に短絡的かつ非生産的な罵倒を返すことしか出来ず、後日非常に後悔することになるのだった。