くらげどころの騒ぎじゃない
まあSSが季節総無視なのは今更なので海に浮いてようが時化て荒れてようが関係ありません。というわけで海の日の何かです。
「辛気くさいわねえ」
「…うっさい」「うるさいわよ」
心配は一応顔に乗せている江利子は、それよりかなり大量の呆れを抱えてこちらを見つめている。抱擁、じゃないし、抱きしめてたのにも色つきの理由があったわけじゃないのに、気まずさとやらは容赦なく私たちを襲って頬を赤くさせた。笑い声じゃなくてため息なのがまたいたたまれない。
「とにかく、大丈夫だから」
掠れた声で聖が告げる。私の膝の上の頭が少し移動して、ちゃんと江利子に照準を合わせてはいたものの弱々しさは隠しきれていなかった。まあ腐れ縁だからたとえ完璧に取り繕ったところで見破られるのがオチだろうが。
へー、と平坦に返す江利子の瞳に輝きが戻って嫌な予感。
「でももう救急車呼んじゃったから」
「え、嘘!?」
「う、そ。
呼んだのはタクシー。病院行ってきなさい」
こういう時の江利子は妙に大人だ。
「支倉令という名前の?」
「残念うちの馬鹿兄貴なの。」
「令じゃ繊細過ぎるでしょー。まあ若葉マークでも絶対に安全運転だろうけどねえ」
さっき死にかけた人物がへらへらと巫戯けた会話の片端にいる。対象のわからない堪忍袋の緒が切れた私は思わず怒鳴った。
「このばか!」
その場にいた全員がどこか安心した表情を見せた。私も含めてだったのが気にくわなかったが、抜けた空気に私たちはとにかくほぼ同時に息を吐き出す。
「……ありがと」
「はいはい」
冷や汗が引いていく様は、目の前の波にどこか似ていた。