日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

横顔

〈見つめる〉3/5

拙作「聖と四季」追想。

聖視点にするつもりがいつの間にか鬱な蓉子が語っていたという(笑)。繋げるつもりは当時全くなかったんだけどなー……。

「なんかさ、冬って寂しいじゃない」

「……そうね」

「ああ寂しいなって思うと、蓉子の顔が浮かぶんだ」

「……そう」

嘘つき、とは言わない。自分を誤魔化すことはあっても、軽薄な言動でうやむやにしようとはしても、聖は完全な嘘はつかない。事実を誇張して、或いは隠して。余計なことをつけたして。脚色された言葉は大抵甘い。だから聖の本音はいつも冷たい。

「春になると祐巳ちゃんは元気かなって思うし」

餞別、もらっちゃった、と嬉しそうに話す笑顔を思い出す。内緒だよ、なんて私の近くで、耳に唇が触れそうな距離で。言うわけがないと、触れることはないのだとわかっているから、私を相手どって満足を得ようとする。

桜に言及しないのはわざとに決まっている。本当に大切なことは自分だけで持っていたがるあなた。

「夏は志摩子かな」

……彼女とどんな思い出があるのか、私は知らない。

追想する聖の横顔は月に照らされて青白い。本当は街灯やたくさんのイルミネーションの方が影響しているのだろうけれど、浮かび上がる美しさは自然にのみ祝福されているのだと。思いたくなる。私は満月よりも遠くから、横目で見ることしかできないから。

「秋は……江利子でいっか」

あいつとは何やったっけなあ。

誤魔化す聖。きっと夏の思い出を薄めたかったのだ。無責任に推察を重ねては私は聖を形作っていく。きっとたいして違ってはいないところが嬉しくて腹立たしい。あなたを一番に理解した気になっている。所詮ごく浅瀬に過ぎないのに。それは聖が私を人身御供にした結果でしかないのに。

「だから冬は蓉子」

削いで、削って、足して、重ねて。ここまで装飾が過ぎればもう嘘と呼んでも相違ないのではないだろうか?

私が気づいていることに気づいている聖に、私はそれを指摘できない。寒い冬空の下、ふたりでばかみたいに冷気に体温を奪わせている。聖の願望が透けて見えて痛い。まるい月はあんなに大きいのに。ちっぽけな私に全てを押しつけようとする酷い親友。

「だからって、何よ」

かろうじて出た軽口は吐く白い息よりも役立たずで。自分が望んで今ここでこうしていることに私は怒りながらそれをぶつける先を持たない。佐藤聖の捌け口。今日くらいは嘘を塗り固めた文句も嫌味も無しに、幸せ未満のささやかな充足を享受すればいい。

「……雪合戦、楽しかったね」

「そうね」

あの雪の夜と少女には、蓋と言う名の偽りのフィルターを共有して。話を反らすのが精一杯で、独り占めできないあなたに、微かな優越を覚える黒さを私はそっと握り潰した。

冷えたベランダに頬杖をつこうとする聖の横顔は、月明かりに濡れ、壮絶に美しく。私からはただ遠かった。