日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

せっかくだし海の日記念にしてみる(不謹慎過ぎる)。

色気とか下心とかまったくない口移しが書きたかった。のです。本人たちはいたって真剣な、傷口から毒を吸い出すとか、庇うために抱きしめるとか、そういうシーンが好きすぎて困る。

自殺行為だとか二次災害になるだけだとか、毎年この時期のニュースではことある毎に言われているけれど。

だって仕方ないじゃない。気がついたら身体が動いてたのよ。

必死で水を掻く。抵抗著しいぐにゃりとした液体の中でもがいた。ごぼりと飲み込んだせいで気道が潰される。透明のはずなのに目の前が血を吐いたかのように赤みがかる。

「聖!」

がむしゃらに手足をばたつかせる聖は人ひとり分など遥かに凌駕した力で私に襲いかかってきた。次々に打ち寄せる波が癒しの揺りかごに比するくらい。顔にかかる水しぶきもふたりまとめて飲み込もうとする時化も暴れる聖も意識の外に追いやって私はただ浮き輪に徹する。今叫んだら水を飲む。下手なことを想像したら最後だろう。明日の朝刊を飾るなんて死んでも御免だ。

叩きつける水圧と底につかない足の裏と強引に停止した私の思考。震える聖の力が少し抜けたとき、浜から声が届いた。晴れ間の光は私たちを無様にさらす。

「……死ぬかと、思った」

「死ぬところだったのよ」

力ない声。ペットボトルを差し出すと、青ざめた顔を更に白くしてもう当分水は見たくない、と言われた。滅菌された淡水の容器がべこりとへこんで、私のみっともなさを明るみにする。やわらかすぎる素材。あのときの聖はこれよりも更に弱かった。

「飲みなさい」

ぐいと煽って聖の顎をつかまえる。見開いた目のおかげでまつげどうしの接触は避けられ、私は色素の薄い瞳を独占したまま押し開けた唇の奥に水分を流し込む。当然というかなんというか、半分以上を溢した聖は慌てて私を引き剥がそうと両手をついた。さっきの水の中の揉み合いに比べたらお遊びも良いところだ。逆らわずに引いた私の前でけほけほと咳き込んでいる聖に、もう一度。

もう少し保健の授業を真面目に受けていれば良かったと思う。けして不真面目だったつもりはないけれど、一度きりのテストの後すぐに曖昧になってしまった情報を、もっとしっかり整理し直しておけば良かった。本当は私は今だってとても不安。確証のないまま聖に触れる指が、震えなければ良いとばかり思っている。

「病院、行く?」

間髪入れずに首を振った聖に、そう、と返した私の声は、そんな無駄な足掻きを呆気なく無にしてしまった。すんと鼻を鳴らす聖が、私を見つめるのを感じて、頬が熱くなる。

「……あり、がと」

まだ青白い聖にぐったりと寄りかかられて、感知できるぎりぎりの声量で囁かれたことばに、ぐっとその身を支えることで応えて。

もしもの世界を考えるのは怖すぎたから、色々な要因で冷えきった聖の身体を壊す勢いで抱きしめた。