箱詰めピクニック
ピクニックに行く前に力尽きた。
黄薔薇のふたりです。何も考えなくていいラブやほのぼのが書きたくなると大抵下級生になっている。
梅がしだれ、香が鼻を擽る。
降水確率は数日前からゼロパーセントで、バスケットの中には首尾良く買えた具材が、とりどりの色を競いながらに薄く切ったパン生地に挟まれている。絶好のピクニック日和。ちょっと絶好過ぎて気温は春の陽気を通り越していて、由乃の体調が心配だけど。いやでも口にしたら怒るだろうな。
手術後に振り切れてしまったメーターが由乃を縛っていた過去を懐かしめるくらいには平和な日々の中で、由乃の呼び声が聞こえる。待ちきれないというのが伝わるのが何より嬉しい。今日の由乃の足元は脱ぎにくいブーツだって知ってるから、はーいと大きく返して水筒に麦茶を注ぐ。早く行かなきゃ。心はもうとっくに飛んでいってるけど。
似合うね、って言ったら、令ちゃんが選んだんだから当たり前でしょ、と得意気に笑う由乃の、手を取る私の袖口がひらりとはためく。これしきの飾りですら本当は気恥ずかしいんだけど、由乃が真剣に選んでくれたんだからと頭を振る。バスケットは揺らさない。由乃に触れた手もぶらしたりなんかしない。
どうしてそこで赤くなるのよ。呆れた風の少女の小さな手に指同士を絡めるいつもの繋ぎ方でくっついた。