ヒトの玩具には鱗粉を差す
〈唐突に江蓉週間〉2/5
パラレルでいつか書いたシチュエーションで、どうにか幸せにできないものかとやってみたもの。しあわ…せ?
なんか、恋を書いたなあと思いました。愛じゃなくてさ(笑)。
あなたは平気で約束を反古にする気がして。一方で当たり前の顔をして待っている気もして。待ち合わせには少し遅れて行く。他の誰相手にでもしない、だから多分私の愛情表現のひとつ。
いや、あなたの挙動、愛の所在に怯える私の自衛手段。
あなたは遅刻はしないから。不慮にして遅れる時は、きちんと連絡を寄越す、から。噴水を抱えたコンコース、駅前の喫茶店、あなたが降りるバス停の前。見慣れた姿に、息を呑み、次いで安堵する。やわらかな髪質が、風に乗ってその存在を際立たせて。
「蓉子」
ああ、あなたに呼ばれると、それだけで舞い上がる私の心。愚かで単純で情けない、恋をしてしまった全身が、血を集めることで愛情を示す。
「ごきげんよう、江利子」
捕まえられない、ふわりふわりと舞う蝶の鱗粉。それは毒だと、分かっているのに。
「遅れてしまって、ごめんなさい」
「これくらい、構わないわよ」
真面目ねえ、と茶化すあなた。真面目じゃない方が好きなら、優等生なんてやめてあげる。そんな告白は、できないけれどどこまでも本音。
あなたの価値基準は独特で、けして読めないから不安になり安心する。まだ気に入られているのかといつも思い。誰にもわからないなら大丈夫と言い聞かせる。どうか、使い捨てないで。彼女の玩具なのだと自覚しているかのような願い。
「行きましょうか」
「ええ」
当たり前のように腕を取られ、歩き出す江利子。ただの気紛れ、わかっている。声が小さくなった私は、きっと恥ずかしがっていると思われてるだろうことも、わかっている。いつか平気な顔でこの手を離されるのだ。わかって、いる。
「空いてると良いわね」
「そうね」
あなたの毒を廻されて、熱を帯びる私の緒器官。もうこれで良いのかもしれない。熱に浮かされるまま、江利子の歓心を買うためだけに行動して。使い潰された後は全て壊してしまえたら。
幸せだろうな、と自分から腕を絡めた。ひょいと眉をあげた江利子が、呆れたように見えて慌てて離す。
「良いわよ、このままで」
「……本当?」
「ええ。」
珍しいから、驚いただけよ、と。
平坦な声音で甘いことばを吐くあなたに、私は何も返せずに。
たださっきより強く江利子の腕に腕を。あなたの舞う欠片を肌に染み込ませようと、強く、ひたむきにと。