嫌いな声
〈合計して僕〉やっつめ/10
今更1番目。あとちょっと。
実際のところ、結構頻繁に蓉聖になってると思います。
「痛っ」
ベッド脇の小さな箱に手を伸ばすとばしりと頭をはたかれた。
「それに手を出したらもうキスは打ち止めよ?」
期限を明示しないのはきっとわざとだ。
力ずくで取り上げようとはしない代わりに、見る度に咎めてくる蓉子の声はぶれがなくて一貫してる。まっすぐに刺さって痛い。
「吸い込んで吐き出して、肺を汚して、馬鹿みたいよ」
言い捨てる蓉子は、いつもの優しさが少し剥がれてる。本音なんだな、って思うけれどそれで手放せるくらいならもうずっと昔にこいつとは縁を切っていた。馬鹿なことだし、害ばっかりの煙だって、私にだって分かってる。
「……だって」
最初の最初は多分、ちっぽけな反抗心。
むせかえって、長い吸いさしを灰皿におしつけてそれぎりだったはずの縁を何年も経ってからもう一度繋げたのは、寂しかったから。
「言い訳なんて、聞きたくないわ」
だって、ワルイコトをしている間は、蓉子はずっと私を見ていてくれるでしょう?
心配させすぎてしまったり、他人を巻き込んだりしなくて、なおかつ持続性のあるうってつけのアイテム。
「……ごめん」
蓉子以上に溺れる対象なんて、本当は、できるはずがないのに。
「……聖は、そればっかりね」
突き刺さる言葉の正当性に、肺よりも汚れてる心はじくじくと痛むけれど。
本当は、蓉子の強い言葉に、すぐに揺らぎ折れそうになる自分の方が嫌い。弱いままを許されそれに甘えてしまう自分が端々に滲み出る、情けない声が嫌い。
「……吸わないから」
口実を押しやって蓉子にしがみつく。
今は、って心で付け加えたのにきっと蓉子は気づいてる、けど。
「いっぱい、キスしてくれる?」
呆れたためいきの後にふわりと私の肌に乗った唇は、心地よい酩酊を何度でもくれた。覆われた唇から、私は蓉子の香りを味を何度でも吸い込んだ。
そのあたたかさはやっぱり煙草なんかよりずっとずっと中毒性があって。
ずっとずっと中毒でいさせて欲しいな、って、思った。