日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

某方々の猫耳にやられていたときの話。(いつかどこかで書いた話の多分 大元。)

「蓉子!」

不意に姿を消したかと思ったら唐突に名を呼ばれた。

やけに機嫌の良い彼女は塀の上。こうして見ると、ますます猫のようだと思う。気まぐれで気高くて。前にその話をしたときは「蓉子の方が猫だと思うけどなあ」と珍しく歯切れの悪い口調の返事。理由を訪ねてみたら「だって、猫耳似合いそうだし」と胡散臭い笑顔で返された。肘打ちは綺麗に入って聖はそれから暫く顔をあげなかった。だから、その言葉が誤魔化しだったのかは分からない。どちらにしても頭が痛い。結論で言えば、今の聖はとても猫に似ているということだ。それだけ。

「どしたの?」

首を傾げるところまでどことなくはまっていて、私は吹き出してしまう。何でも無いわよ。だから、と続けようとしてその先を見失った。余所様のコンクリートの塀の上を器用に歩く聖。光の反射で一瞬輝いた瞳が、本当に猫のようで。少しだけ戸惑った。私は彼女に、何をすればいいのかという戸惑い。何もしなくていいのだという歓喜と、何もできやしないのだという苦悩。どちらにしろ私は聖の側にいるのだけれど。このばらばらの感情を、まとめて愛だと思い込んで。

「蓉子もくる?」

何か深い意味が埋められていそうな抑揚が。私を誘って捕らえて離さない。甘い甘い束縛。それは気まぐれな彼女の、変わらない独占欲。

「やめておくわ」

スカートだもの、と付け加えたような言い訳。添えようとしたパセリが白い皿から零れて転がっていったような、そんな心境になる。特別困りはしないのにどこか決まり悪い。どこか、バランスが悪い。

聖は案の定見透かしたように笑っている。答えを知って口にした問いは、ただのじゃれあい。鼻歌が頭上から降ってくる。

今度聖を迎えに行くときはジーンズにしよう、と心に決めて。私は聖を見上げた。

猫のような彼女は喉の奥で笑って私の隣に飛び降りてくる。思わず頭を撫でたくなってしまうほど綺麗な形で。私の伸ばした手はそうする代わりに聖のそれへと繋がれる。自分からするなんて珍しい、と自分で驚いたけれど離す気にはなれなかった。外なのに人がいるのに、と考えるいつもの自分は一枚ガラスを隔てた奥にいる。ああ、これは多分。

私は飼い主よりは、貴女とじゃれあえる猫になりたいのね。

聖がしっかりと握りしめている、自分の小さな独占欲に。そんなことをそっと思った。