聖と江利子( で聖蓉/江蓉)
もっと延々長いんですが脳内妄想が消失する前に書き逃げ。
先代三つ巴というカテゴリでいいんじゃないかと最近思えてきました。
そこに至るまでの事情は割愛するが、あのときの私は栞を失ったとき以上に自失していたと、今なら思う。
落ち着きなく狭い室内をうろつく。時折感じる江利子の視線が平坦に過ぎて、それが私を更にふらつかせる。
腐れ縁に繕う体裁なんてとうに持ち合わせていない。蓉子のいない時間だけが積み重なっていく。
「あんたが笑ってくれないって泣いてたわよ、蓉子」
「……うそぉ」
「ええ、嘘。」
せせら笑う江利子に反省の色など欠片もない。こいつはそういう奴だ。直情型のくせに冷徹で、後悔してるところを見たことがない。心臓は毛むくじゃらに違いない。
ばかばかしい呪詛を吐いたって聞こえるはずもないのだが。音声化したって江利子には届かない気がする。
「でも、泣いてたのは本当」
「え。
……なんで!?」
心当たりはあり過ぎるくらいあった。痛まない記憶がない。
なんで泣いてたの。なんで江利子は知ってるの。なんで江利子の前で。私は。私の。
「……よーこ、私の前で泣いたこと、ない、のに」
「嘘ね」
被さる断定。はっと顔をあげると揶揄する顔つき。絶対わざとに違いない、艶然とした。
「違う、そっちじゃなくて」
生理的な、私がすがっただけのあれじゃなくて。
足元がぐらぐらする。体感がおぼつかない。揺らぎ続けているのになぜかみっちりと生き埋めになっているようにも感じる。ざらざらの砂に擦られた肌が粟立って、逆円錐の砂地獄が私を呑み込んだ。
なんだこれ。まるで呪い返しだ。毛むくじゃら江利子の。違う、ふらふらしてた私の。それは、蓉子がいないから。だって蓉子が、構ってくれないから。
「だって、何?」
私の中で暴れまわっているこの感情は、これは、喪失感ではない。
だから、まだ。