日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

枯れ葉の紅

蔵出し江蓉。

体調崩しました。風邪テンプレの見本市でいっそ笑えます。

「何をしていたの?」

言い方が多少刺々しくなったのに、しまった、と思う。蓉子はこういう感情の揺れにひどく敏感だ。

「……紅葉が、綺麗だったから」

「わざわざ庭に出て?

 ここからでも見えるじゃない」

少し間を置いて、ゆっくりと返す蓉子はどうやらぼんやりとしていたらしかった。風邪を引きかけの時に似た雰囲気を纏う彼女に、本調子じゃなかったならバレなかったかもしれない、とまず考えてしまった時点で私は随分と利己的だ。それで構わない、と最近開き直るようになった。蓉子をこれ以上慈しみ愛情を注いだところで、蓉子が私にかける好意が増えるわけではない。

「だって、これ」

「……よく持ってきたわね」

「あ、い、いけなかった?」

「そうじゃなくて、崩れやすいでしょうに」

「それは大丈夫」

ふうわりと笑う蓉子は、年相応に見える。よく笑う子だった。すぐに怒って、でもすぐに許してくれる子だった。それが蓉子なりの優しさなのだと気づいたのは最近のことだ。この子は自分のためには怒らないのだ。握りしめた小さな拳を、悔しげに噛み締める唇を、何度陰から見てきたことか。

「このくらいの赤がね、好きなの」

少し恥ずかしそうに告げる蓉子の手に包まれた、ひとひらの落ち葉。私は蓉子が噛んだ唇の赤さの方が好きだ。不意打ちに頬を染める、柔らかな色を本当はとても大切に思っている。

だからたまに意地悪をしたくなるのは虐めっ子の心理ね、とこども染みた支配欲と独占欲を呆れながら俯瞰する。困った顔は羞じらいに似ているし、表情とともにゆるむ唇からは愛してると今にも言われそうな気がする。叶えば予知、叶わなければただの妄想。望まぬ方にずっしりと重みを乗せたままの現実の中で、蓉子が綺麗に笑っている。

思わず引き寄せれば身体を固くした。何もしない、何もされない。それがむしろ不自然で苦痛となるほどの距離に身をおいて、私たちは見つめ合う。

先に目を逸らしたのは私だった。

「押し花にでもしましょうか」

疚しい思いがあるからだなんて、自分が一番よくわかっている。

「……凸凹があるから、割れてしまうわ」

「じゃあ飾っておきましょう」

私の部屋なら、どこでも良いわよ。

吐き出した囁きでも届く静けさ。本当はその艶やかな黒髪にかんざしのように挿してやりたい。当の蓉子に見えない仕打ちは私を心から楽しませるだろう。

忙しい蓉子にははなから無理な注文を。心の中でもてあそんで私は部屋を後にする。障子を開け放つと目に入る中庭で色づく楓は確かに綺麗だった。さっきのあなたほどじゃないわね。呟く私の後ろでは、可愛らしい花が一輪色づいている。