実写版
映画上映おめでとうございます。
告白ごっこ、江蓉のターン。下級生時代なのでいちゃついてます。純粋両想いです。幸せって素敵ですね(笑)。
「今日の令、可愛かったわー」
「……はぁ」
にやにやを通り越してにたにたと笑ってる江利子は正直ちょっと(、いやかなり)気味が悪い。彼女のこんな表情も、ついでにいうなら態度も今更なんだけど。慣れれば気味悪さが薄らぐかといえばそんなことはないし、第一慣れられるようなものでもない気がする。
「可愛かったのよ」
「へぇ」
ここで何が、と聞き返したりしちゃ絶対にいけないのは今までの経験で織り込み済みだ。微に入り細に入り説明されるか、私には理解不能の文法と技法で表現されるか、あまり歓迎したくない二択をあちらの都合で選ばされることになる。問答無用の用例をテストで聞かれたら是非解答したいぐらいの模範ぶりなのだ。(しないけど。)避けて通れるならそれに越したことはない。
今にも踊り出しそうなくらい上機嫌で書類をめくっていた江利子ははたりと束をしならせて、そしてこちらを向いた。思わず身構えたのは防衛本能として正しい判断、よね。
「蓉子、妬いてる?」
「…なんでそうなるのよ」
それは何、私が祥子自慢をしたら江利子も妬いてくれるってことかしら。
祥子の最近可愛かったところならふたつやみっつすぐに出てくるが、どのカードをいつ出したところで盛大に嫌がられるか鼻で笑われるかで終わりそうだ。予想した表情のどこを分析しても嫉妬なんて御大層な成分は全く含まれていそうにない。
「なんでって言われても、ねえ」
「ちょっと江利子、顔、近い」
大きなテーブルを乗り越えて伸びてきた上半身に、こちらの上半身を仰け反らせることで逃げようとする。はやく手にもってるそれ終わらせなさいよ、待ってるんだから。手伝おうかという申し出は辞退したくせやる気もないときては律義に待ってる私が報われない。一年生に割り当てられる書類なんて今の時期そんなに重要でもないのだし。ちょっとだけ残ってる令お手製のクッキーを退屈しのぎに食べてしまうのは色々な意味で気が引ける、し。
「遊んでないで、はやく終わらせて」
「やっぱり妬いてるじゃない」
「違うわよ」
「意地っ張り」
これ以上会話を続けていても勿論江利子の仕事ははかどらないので、口をつぐんだ私に江利子は相変わらず普通からおおいに外れた笑顔を見せる。言い返しても無駄だ。結局私がこうやって折れるはめになる。やる気がないなら急ぎでもなし、明日にしてしまえばいいのに自分から進んで引き受けたものだからと再び目を落とした江利子はそうね、微笑ましいと言えないこともない。
妬くなんてとんでもない。そんな私の心境を知らない江利子は、一体どの要素からか鼻歌混じりでペンを握り直す。私のためも含まれてるかも、とは敢えて考えないことにする。赤面しちゃいそうだし。