不倫フラg
何故虫ピンを膨らませようとしたのか……。
江利子と蓉子。
……はくぶつかんにいきたい
蓉子が発したことばが意味を為すまでに、しばらくの時間を要した。
「……突然どうしたの」
爪を磨いていた手を止める。左中指がちょうど終わったところ、キリがいいと言えなくもないが全体を並べればとても中途半端。
広げた手の向こう側にみかんが見える。
「うん、」
虫ピンがね、見たいと思って。
考えてみたら、本物を見たことないのよね。
見れる場所って意外と考えつかなくて。
ふつうの昆虫ショップにもあるものなのかしら。
でも実際に使われてるところが見たいのよ。
ぽつぽつと吐き出されることばは懺悔に似て、行きつ戻りつしながら独白を形成した。正直よくわからない。蓉子の意図。矛盾や無駄が多く、ただ思うままをこぼしているだけなのだろうことはわかる。だから余計に。
えりこ、いっしょにいかない?
何故そんなに切羽詰まった表情で私を見つめているのかも。
わからない蓉子に付き合わないという選択をしたことは、これまでに一度もなかった。