力尽きたorz
旬が過ぎるのもどうかと思うので七夕ネタ投下。
季節物には恒例なバカップルです。
「水野さんは何を書く?」
「え?」
今日がその日だということは勿論知っていたけれど、ここで言われるのは予想外で。
半切りの折り紙を学友に差し出された蓉子は、珍しくも驚きの表情を浮かべた。
「蓉子、笹」
「……おかえりなさい、聖」
まずは挨拶! と怒られるのが目に見えたのか、聖は俊敏な動きで目の前までやってきて蓉子をぎゅうと抱きしめ耳元でただいまと囁く。つくづく気障だ。むしろ気障を超えて頭が痛い。聖のはく息の向こうでかさかさと乾いた音がする。
「持ってて」
これまた手を洗えうがいをしろと言われるのを察知したに違いない足取りで、聖はリビングから消える。最近はちゃんとサボらないようになったとはいえ、あの態度はどうにも自発的とも自然とも言い難い。
ふう。蓉子のついたため息も、かさりと笹を揺らした。
ひょっこりと聖は顔を出す。濡れた手はきっちりとジーンズで拭きながら。
洗面所にはちゃんとタオルがかけてあるのに。
「蓉子、何書く?」
「聖からどうぞ」
にこり、と短冊の見本市。
紐を通す部分がパンチで穴開けされているところから見ても蓉子の手作りだろうな、と聖は見当をつける。下手したらカッターどころか截断機使ってるかもしれない。飾り付けはやっぱりするんだろうなあ短冊いっぱい余りそうだしなあ。
「今年も張り切ってるねえ」
「良いじゃない、年に一度なんだし」
年に一度の行事が年に何度あると思っているのか。
蓉子から笹を取り返して、ゆさゆさと時間稼ぎ。もう片手では油性マジックがくるくると。
「よーこはなにかくのー」
ゆさゆさ、くるくる、すとんの間から、聖がもう一度尋ねる。
この黒マジックはバランスが取りづらくて聖でもよく落とす。蓉子は回せないんじゃないか、なんて実は思ってる聖は、蓉子がふふふと笑うのを間近で見る。
向かい合わせに座るよりは隣が好き。