枯れ葉の紅
こんな和風パラレルが書きたいと思ってはや半年……いや、構想入れたら1年弱……。時代物は某方におまかせしておけよ、という脳内ツッコミが凄いんですけどねははは……。
このあと脳内ではばりばりの聖蓉展開を遂げているのですが、今回は江蓉成分含んでますご注意。江利子好きすぎる。
「あんた、だれ」
私にとってはいつも通りの声は、相変わらず、ひどく不機嫌そうに寒空に響いた。
「えっ。
え、と……」
「このお屋敷で働かせて頂いてる者、です」
ばさりと揺れた黒髪は顎の辺りできっちりと切り揃えられ、見るからに出来る使用人然としていた。手に持った竹箒も、剥き出しの手も裸足に草履ばきの格好も、この屋敷の主たちとはとても思えない出で立ちで、そりゃあそうでしょうよと言いたくなる。わざわざ言うことすら勿体無いかもしれない。
「ふぅん」
つまらない答え。
続くのもつまらない相槌。
ああ馬鹿馬鹿しい、何だって私はこんな寒い日に外でこんなことをしているのだか。
「あなたは?」
「知らない」
ろくに名乗りもしない奴に何を言えと言うのだろうか。この屋敷の誰それに用がある、とか?
生憎そんなものあったらとっとと告げているし、それが火急の用だった暁には目の前のこいつは近いうち首になるに違いない。
くだらない想像でうさを晴らしている自分に気づき、は、と吐き捨てる。
「自分のことなのに?」
傾げた首も剥き出しなのに、寒そうな素振りを見せない少女は気分を害した風もない。天然なのか単に面の皮が厚いのか。
これから更に冷え込んで行く季節、この少女はいつまでこの服装でいるのだろうか。
「じゃあ、教えない」
そんな無意味な思考を、少しだけ巡らせた。
「あ……、
ごめんなさい」
「別に」
あと15も若ければ立派にお稚児さんとして通用しそうだ。案外それが真相かもな、と底意地の悪いことを考えた私の気分はますますおかしくなる。どうせ何の目的も目的地もない散歩だったのだ、さっさと退散しよう。それが良い。
「騒がしいわね」
「……あ」
ぴくりと反応した痩身は、いけすかない声の主を振り返りかけ、そのまま惑うように止まった。気にした様子もなく江利子は歩いてくる。
彼女、と私との間に立ち塞がったのに少しばかり違和感を覚えた。主従の逆転? いや、恐らく江利子が誰かを守るような素振りを見せたからだ。
「人の友達に、手を出さないでくれる?」
睨む視線。
……いつもの、見下す視線、だ。
やっぱり何も変わっちゃないじゃないか。
「……ともだち?」
「っ」
わざわざ「友達」の方に尋ねてやれば、僅かばかりの間、狼狽える。何かに頭を巡らせ、迷っているのはわかるが、はっきりとしたことは結局何も口にしなかった。たいそう躾が行き届いていますこと。
「ふーん、友達、ねえ」
「そーよ、ひとりがお好きなあんたにはわからないでしょうけど」
「あーそうですか、身分差を笠に無理強いしてるようにしか私には見えないけど」
「なんですって?」
「相変わらずいけすかない」
「こっちの台詞よ」
舌打ちと皮肉の応酬。一気に気分が悪くなった。
「……え」
ぽとりと落とされた疑問符が不毛な会話を見事に遮断した。
「知り合い、なの?」
きょとんとした顔がやけに幼く見えて、私は知らず目をこすっていた。そういえば年齢を聞いてない。興味なんかないけど、もしかしたら同い年くらいなのか?
同じように呆気に取られていた江利子が腹を抱えくっくと笑い出すのを見て私は躊躇なく彼女たちに背を向ける。奴の笑い顔なんか見ても楽しくもなんともない。
「行くわよ、蓉子」
「え、あ…っ」
慌てたような声は、最初の印象よりはやはり随分と幼びていた。
どうしてだかちくりと、胸に引っかかった。