おもちゃばこのあとしまつ
やっすいカッターは大概まず柄が折れますw
もうきっと誰も覚えてないしいつもの自己満足です(笑)。
「それ、どうしたの?」
目敏い蓉子を誤魔化しきれるとは勿論思ってはいないから、釘にひっかけちゃって、みたいな下手な言い訳は端からしない。それにしても音速の指摘だな、と心中で諸手をあげる。
「ああ、カッターで」
「カッター?」
「そ、カッターナイフ」
玩具みたいなちゃちな奴、確か100円もしなかった、と余計な情報は付け加えないことにする。腕を組むのも早すぎますよ蓉子さん。まだ玄関なのに。靴脱いだばっかりでたたきからは1メートルと離れちゃいない。
「ちょっと切ってみようかなーと思ったんだけど」
「ちょっと」
「なんか、ばかばかしくなって来ちゃってね」
掛け値なしの本音。もうそういう方向に勢いづける情熱はないんだ。プラス方向にはあるのかと聞かれるとちょっと困る。あったら良いなあ。むしろ欲しい。
「やめなさいよ」
「だからやってないよ」
「絶対に、だめ」
「ん、わかってる」
「……本当かしら」
「蓉子にそんな顔、させたくないもの」
「私はどうでも」
「よくない。
蓉子は怒ってくれるでしょ。悲しんでくれるでしょう?」
「それが、望み?」
「私は、蓉子のそういうところ、好きだから」
「そういうところは?」
「ん。
ぜーんぶ大好きなんてのはもうきついのですよ」
「……そう」
蓉子を傷つけるのも本当はもうとっくに辛いんだけど。
ホントはぜーんぶ愛してるよ。愛したかったよ。蓉子に隠してること、全部捨ててしまいたかった。
蓉子のチャイムで、来訪の気配で、瞬時にまっさらになったはずの私の心は、自己保身の分厚い壁をまだ捨てられない。捨て身になれない代償に、中途半端な恋心を育てる。
「ま、あがって」
「…そうね。
聖は着替えたら?」
「そーする」
シャツ一枚駄目にするだけで蓉子との距離が縮まるなら、いくらでも切り刻むのになあと裂けた袖から伸ばす腕が触れない相手に、届かない告白をひとつ投げた。