理屈より屁理屈
〈合計して僕〉ななつめ/10
二番目。指先フェチで何が悪い。
昔聖志の御題でイチゴ味って実はやっちゃったんだけど……まあ。うちの聖蓉がやたら果物を食してるのは、私の味覚が志摩子寄りだからです(苦笑)。一年前までいわゆる女子高生でしたが銀杏も百合根も春菊も普通に愛してました。天ぷらで一番好きなのは茗荷です。……良いじゃない別に。
「ね、食べさせてよ」
祐巳ちゃんが分けてくれたたくさんのイチゴを、差し出して満面の笑みで蓉子に告げる。
そのまま手で口で、でも良かったけど蓉子がジャムを作るっていうから。
スコーンが食べたいな、って甘えたら蓉子は嬉しそうに笑って頷いてくれた。
「まだ?」
「当たり前じゃない」
そんな早くできないわよ、とうろうろする私を宥め、試しに食べてみる? なんて私を誘う。深い色のエプロンは蓉子に良く似合う。混ぜてた木しゃもじで赤いのを掬い取った蓉子が熱っと声をあげる。
「蓉子っ!?」
ひらひらと手を振って大丈夫だって表現する蓉子、くわえた指先はここからじゃ見えない。
「……熱かったわ」
ふう、と嘆息する蓉子はちょっと後悔してる顔。蓉子は私のもの、所有物を傷つけられて私はちょっと不機嫌な顔。大切な人、あなたに気取られる前におどけて醜い独占欲を隠す。
「何が?」
「ジャムに決まってるでしょう」
「火傷しちゃった?
じゃあさ」
何か言わせる前に口に含む。ちゅ、と音の立った、蓉子の人差し指。息を呑み、慌てて引こうとするから軽く歯を立てる。あがる小さな声、眉をひそめたから火傷した肌には多分痛かった、でも何も言わない咎めない蓉子。やめて、は、恥ずかしさから来てるものでしょう?
「……よし」
てろてろになるまで唾液を擦りつけた蓉子の指。甘くって夢中で舐めしゃぶった、ファーストキスは何の味、なんて言葉をこんな時に思い出して笑う。本棚でかっちりした法律資料に囲まれ窮屈にしてる蓉子の甘い甘い小説たち。
「ちょっとは良くなった?」
「……こんなんで冷やせる訳ないじゃない、ばか」
レモンじゃなくてイチゴ味、体温で火傷は冷やせない。私の蓉子は頬を染めてそっぽを向く。
「癒してあげるの」
「……もう」
呆れた蓉子は私だけのもの。ためいきをつこうとした唇を塞ぐと甘い甘い蓉子の味が広がった。