日記

いわゆるオタクの趣味語り日記。百合とラノベが主食ですが無節操。書痴。偏愛に妄想、ネタバレや特殊嗜好まで垂れ流してますご注意。 本家は二次創作サイト。

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(パラレル/乃梨子)

大丈夫、大丈夫。ぶつぶつと唱えて緊張を紛らわせて、機体に乗り込んだのはもうずっと前の話。馬鹿丁寧に人という字を手の平に描いて震えていた同僚は、あれから何ヶ月か後に墜落した。私は生きている。大丈夫、と呟いて目を瞑って志摩子さんの姿を思い浮かべただけで平常心に戻れた私。一兵卒なんて言ってみれば捨て駒だ、けれどそんな度胸のせいなのかここの部隊長直属の補佐に随分と気に入られたせいなのか、私は異例とも言える早さで昇進している。らしい。よく分からないのは普通とやらを知らないからで、先輩や同期からの嫌がらせの陰湿さを思えば納得もできる気がする。別にどうってことない。腹が立っても、志摩子さんのことをちょっと考えて、今度会いに行く日の予定でも立ててみれば、それで収まる。実際私は呆れるほど単細胞なのだ。大胆だの勇敢だの、物は言い様でただ繊細さが足りないだけ。飛行機乗りって奴はどうしてこう心の芯まで線の細いのが多いんだろう。確かに身軽だけれど、吹けば飛んでいってしまいそうな奴ら。

手持ちぶさたに眺めていた雑誌を投げ出して、痺れかけた手をぐるぐると回す。上昇、旋回、追跡、墜落。ありふれた毎日。明日もまた飛ぶ。もうすぐ異動があるという噂もある。何にしろ、珍しいことではない。

お前また昇進らしいぜー? と下卑た笑いを飛ばされた昨日。虚か実かなど彼自身にも分かっていないだろうが、それが本当なら、またひとつ負け戦に近づいただけの話だ。志願兵あがりのパイロットに大量の給料を渡す理由なんて滅多にあるものではないのだ。少なくとも私ならしない。

どうせ墜ちるなら、志摩子さんの近くに墜ちたいなあ。

迷惑をかけたくない、と思うのと同じだけ強く、思う。負ける気はない。空に上がったら操縦士は思考まで機に組み込まれる。地上で彼女のことをいくら考えてもだから、問題はない。

あげっぱなしでやっぱり痺れてきた両手をぱたりと落とす。絡みつくように胸の上に組まれた拳。

来週こそは、休み取れて志摩子さんに会いに行けるかなあ。

そんなことを思いつつぎゅっと握った。

現白がかっこよくかける人って、凄いと思う。

我が家ではただのべたべたカップルです(苦笑)。